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れいじのなかのれいじ

神威怜司のbookメモ&思考メモです。

人工知能時代の労働とは。 「人間さまお断り」 ジェリー・カプラン

本書、おすすめです。 

人間さまお断り 人工知能時代の経済と労働の手引き

人間さまお断り 人工知能時代の経済と労働の手引き

 

もう一度読もうと思うが、再読する前に一度、自分自身の思考の整理もかねて本エントリーを書く。

 

著者は「人工知能(AI)」の言葉の生みの親でもある、ジョン・マッカーシーとともにスタンフォード人工知能研究所で研究をしていた人物。そのため、人工知能の知識は深い。さらに起業家としても活動していたことから、ビジネスの経験も豊富である。

そんな著者がこれからより本格化する人工知能時代の経済と労働についての考えを著した一冊。

 

現在で考えると、「そんなこと起こらないよ」という事象も、過去の事象と重ね合わせることで、「未来では実際に起こってしまいそう」と思わせる、うまい文章。比喩がわかりやすい。中でも最後の「導出(アウトロダクション)」での「音楽」を例にとった、これまでの時代における、蓄音機の発明や、アナログ録音からデジタル録音への移行といった音楽業界で起こった技術革新において、その時代時代での有識者たちの残した言葉を引用し、現在で考えると当時のこの考えっておかしくない?、ということを紹介している。

この部分を読むと、技術革新が時代に与えるインパクトというものを正確に捉えるには難しんだな、ということがわかる。そして、これまで読んできた人工知能や未来技術に関する本の内容から推測するに、小さい声(意見)の方がその技術が一般的になった時代と近い考えである傾向にある。

 

本書の中では住宅ローンならぬ、「職業訓練ローン」の考え方がおもしろいと思った。この職業訓練ローン(本書内では略して「就活ローン」とも呼んでいる)は、未来の一部給与を担保にし、ローンを組んでいる企業が必要な技能・技術を学ばせる支援をするものである。学ばせ方はある一定期間を学校に通わせてもいいし、実務の中で学ばせていく形態でもいい。

この仕組みのいいところは、何しろ学ぶ技能・技術は企業が選んでいるので、学んだ後はきちんとその学んだことで仕事ができるようになる。現在の高等教育の仕組み(大学や専門学校等)だと、学べる技能が限定的あるいは、かなりの専門的であることに加え、学んだ後にその技能が企業が求める技能とマッチングするかはわからない。おそらく現状においてはマッチングするケースは稀だと思われる。

職業訓練ローンは私の中では、日本における新卒のようなイメージではないかと思っている。新卒は採用する企業が求める技能・技術はほとんど持っていないのに、採用され、採用された後に給料をもらいながら、その企業に必要とされる技術を学んでいく。採用の際には、その人物が持っているポテンシャルが重視される。職業訓練ローンはこの新卒採用システムのようなものであると、私は解釈して、「新卒」という括りをなくし、年齢に関係なポテンシャル採用をするような制度だ。

これで就職が楽になる、仕事に常にありつけるか、といったらそうではなく、数値化が難しい人間性の資質がより重要性を持ってくると私は思う。企業が未来の労働力を担保に、教育を施そうと思う人物には、将来に渡って企業に利益を与えてくれる人物でなければならないはずだ。そう考えると、人に嫌なことを平気で言う、やる気がない、向上心がない、といった人を採用することは稀であろう。仕事はあくまでも他人と協力して行うものなので、人間性が低い人は職業訓練ローンをなかなか組めないかもしれない。これまで仕事をする上で大事とされてきた道徳的な能力は依然として必要とされるのは言うまでもない。

なので、職業訓練ローンは決してユートピア的な解決策ではないが、今の教育から仕事に繋がるひずみを解消できる解決案としてはいいな、と感じた。奨学金を借りてまで一生懸命学んだのに、その学んだことが社会に評価されない、ということはなくなってほしい。

これまでは学ぶ対象を選択した人間の自己責任としてすんでいた面もあるかもしれないが、これからのより変化が激しくなるであろう時代では、自己責任では済まされなくなってくる。これまでの時代も人間は正確に読めてないのだから、進化のスピードがより指数関数的に増加するこれからの時代においては、より予測はつかない。だからこそ、働きたい意欲がある人にはきちんと働いてもらった方がよりよい社会の実現が速くなるのではないだろうか。

 

その方が人類はより早く、より高いステージに上がっていける。